【エジプト・エチオピア出張シリーズ④】経済発展による貧富の差という負の側面 -RISEUP SUMMIT 2019-

2020.1.9

2019年12月6、7日にエジプト・カイロで開催された、中東・北アフリカ(MENA地域)で最大の起業支援イベント「Riseup Summit 2019」。

昨年は中東諸国を中心に48ヵ国から投資家・IT企業・起業家ら約6000人が参加したそうだ。今年のRiseup Summitは場所をThe American University of Cairo(AUC)に移し、3日合計で150を超える企業ブースでは起業家が投資家などに対して熱心なピッチを行い、4つのプレゼン会場では朝から晩まで絶えず多彩なプレゼンテーションを披露し、会場全体がとても賑やかでパワフルな熱気に包まれていた。

参加企業の業界は多岐にわたったが、医療系のプラットフォームやE-commerce関連の事業、業務管理アプリケーションを運営する企業が比較的多かった印象だ。

ここからは私が実際に会場で感じたことをお話ししたい。

本当に必要なビジネス体系とは…

今回訪れたエジプトはGDP年成長率5.6%(*1)と急速な経済発展を遂げる国であり、だからこそ存在する負の部分(貧富の差)をひしひしと感じた。

そんなエジプト社会全体の課題は、ルワンダを含むアフリカ諸国が抱える課題でもある「貧困層を巻き込んだビジネス」が難しいということである。

富裕層向けのビジネスは商品・サービスが少数にしか届かないが利益を生み出しやすい。一方貧困層向けのビジネスは大多数に商品・サービスを提供できるが、短期的には利益が生み出しにくい。単純に利益の出しやすさでいうと前者の方を選ぶ方が多いだろう。

しかしながらエジプトの月の最低賃金は約125ドルで全土で約221万人の失業者を抱えている。(*2) そんな中で国全体を豊かにしていくという目線だと、大多数の貧困層を巻き込んだビジネスで雇用を生み出し、サービスを提供していくことが重要なのだ。

(参考資料)
*1,2…TRADING ECONOMICS「Egypt – Economic Indicators」https://tradingeconomics.com/egypt/indicators(201912/26閲覧)

今回出展していた企業のいくつかはその課題に後者の方法でアプローチしようとしていた。

例えば、トゥクトゥク・バイク予約アプリを提供するスタートアップ”Haran”は自社で車は保有せず、乗客と近くの運転手をアプリでマッチングさせることで多数のエジプト人に対して手ごろな価格での交通手段を提供している。一方でバイクを用いて商品を運ぶ物流サービスも開始し、渋滞でもバイクで4輪車よりもスムーズに運ぶ。

Uber等が参入する配車サービスでの差別化要因はUberが進出していないローカルエリアでのサービスの拡大である。この狙いの一つ目はまず、より多くのエジプト人にサービスを届けたいということだろう。そして狙いの二つ目は、Halanの資金調達は$20 million弱でシリーズAからBへの移行期とも言われており、サービスの拡大に力を入れ、顧客データを収集することだと予測する。そこで得られた膨大な顧客データを最終的には創業者が経営するマイクロファイナンス会社で信用情報として使用して自社同士のシナジーを生かそうとしているのではないか。

Halanは配車サービスでは貧困層に価値を提供し、物流サービスでは雇用という間接的なアプローチで価値を届けている。ポートフォリオ全体で利益も生み出し、多数のエジプト人に価値を提供している。彼らも自身のサービスの特長を「現存する多くのサービスはなかなか現地の多くの人には届きづらい。我々は多くの”Real Egyptian”にサービスを提供しているのだ」と自信を持って語っていた。

このように一国、一企業、一事業と様々な粒度のポートフォリオの中で、国全体の発展という「全体最適」を果たすにはどこでより利益を生み出し、どこで理念を達成すべきなのかを考え、適切な資源配分や戦略立てを行っていく必要がある。